2014.5月号
「油売り」
「油を売る」この言葉がなぜ仕事途中の無駄話や寄り道等に使われるようになったかと言うと、日本人は古来より油を灯火油、食用油、鬢付け油(ちょんまげ用の油)等に広く使用しており、油売りという商売が存在しました。歴史好きの方でしたらご存じかと思いますが「美濃のマムシ」こと斉藤道三も油売りの行商で財をなし戦国大名に成り上がったと言われています。この「油売り」ですが、主に今の出前のような形で、天秤棒を担ぎ、油がこぼれない様にゆっくりと歩きながら、量り売りで客様の入れ物に油を注ぐというもので、粘性の高い油が垂れ終わるまでの時間を雑談で繋いでいたことから、急ぐわけでもなく、ゆっくりと歩き、お客様とダラダラと無駄話をしていることから「油を売る」という言葉が生まれたと言われております。人気のある油売りは、話がうまい油売りよりも、聞き上手な油売りだったと言われており、現代の「油売り」である我々も売る油は違えども、お客様から人気のあるスタッフはやはり話し上手である以上に聞き上手である傾向にあります。
話し上手と聞き上手では話しをする方が難しそうですが、実際は逆でベテランのアナウンサーのように聞き上手の方が難しいのです。目の前の相手にどのタイミングで話を振り、相槌の打ち方一つでも人それぞれの間合いがあり、いかに聞きたいことを聞き出すかは話すよりも聞く方が経験と勘が必要になります。ただ頷いて聞くだけではなく、話し手「7」聞き手「3」の割合で話を進めるのが最も理想的に話し手が気持ちよく話すことが出来ると言われており、この割合は仕事の話だけではなく、普段の何気ない友人との会話や夫婦の会話にも当てはまり、良好な関係を築くには会話の配分を考える必要があるかもしれません。唯一この割合に当てはまらない会話があるとすれば、それは相手を怒らせ、叱られている時でしょうか。叱っている時に7対3の割合で話を返してきたならば、まさに「火に油」を注ぐ結果になると思います。相手と「水と油」の関係にならないためにも、なにげない一言や会話も割合を意識してみるのは面白いかもしれません。
魚谷 直世 記