2020.11月号

 「ペスト禍のリンゴ」

 

 西暦1347年、地中海の港に停泊した大型帆船から、歴史上最も危険な疫病の1つが発生しました。のちに「ペスト」と言われる「黒死病」が積荷や乗客に紛れて上陸した病原菌持ちのノミがついたネズミから広がり、同じことがヨーロッパ中の港で繰り返された結果、1347年から1351年にかけてヨーロッパを襲った黒死病のパンデミックは史上最悪の規模となり、ヨーロッパ人口の3分の1が命を落としたとされています。

 一度は終息したものの1665年の英国ロンドンで再び流行、人類史上初めてのロックダウン(都市封鎖)により今も残る名門ケンブリッジ大学も休校となったため、ある一人の学生が農園を営む実家に帰省していたところ、リンゴが木から落ちるのを見て「重力」を発見しました。その学生の名前が「アイザック・ニュートン」諸説はあるものの伝記として語られる「万有引力の法則」を発見した有名な出来事がコロナ禍ならぬペスト禍におけるステイホーム期間中に起きたと言われています。

 ペスト禍での自粛生活で大学での雑務から開放され、落ち着いてゆっくりと考えられる期間をチャンスと捉え「万有引力」の他に「微積分学」や「光学」といったニュートンの三大業績はいずれも故郷に戻っていた18か月間の休校中に成し遂げており、この期間は「創造的休暇」とも言われております。ニュートン自身も「もし私が価値ある発見をしたのであれば、それは才能ではなく忍耐強く注意を払っていたことによるものだ」と語っていますが、ニュートンが自粛生活を「忍耐強く」過ごしていたというのが今の我々には感慨深いものがあります。

 まだまだコロナの影響は大きく、様々な研究者から多くの意見がでていますが、どうやら長期化はもう避けられないようで我々も「我慢」ではなく「忍耐」が必要となります。しかし、新しい生活様式でニュートンのように、今まで出来なかったことに挑戦する機会、これまで見過ごしてきたことを見直す機会とするならば、このような時代でも、喜びや希望を持って過ごすことが出来るのかもしれません。

 私も自粛期間中に新たな資格を取ろうと通信講座にチャレンジしましたが、今ではすっかり机の肥やしに…残念ながら私はニュートンにはなれないのでしょう。

                                             魚谷 直世 記

 

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